研究概要 |
光励起GaAs探針を用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡(SP-STM)の開発を目的として,主に以下の2点について研究を進めた. <1>GaAs探針の時間分解偏光フォトルミネッセンス(TR-PPL)測定 TR-PPL測定用のGaAs探針基板を作製し,SP-STM測定と同様に円偏光の水平入射励起時におけるTR-PPLスペクトルを測定した.探針周辺にはAu薄膜を蒸着し,Au薄膜の表面反射による影響を考慮した.室温のTR-PPLスペクトルより,励起電子の寿命104psとスピン緩和時間74psが得られ,定常状態におけるスピン偏極率は約20%と見積もられたが,発光強度の非対称性からは約50%低下した10%のスピン偏極率となった.この低下の主な要因は,入射円偏光が金属表面での反射によって直線偏光成分に変換されたためであると考えられ,水平入射型のSP-STMの場合には重要な効果であることを明らかにした. <2>スピン偏極STMシステムの改良と測定 これまではロックインアンプを用いた円偏光変調信号の検出システムを採用してきたが,円偏光励起方式の自由度を高めるためにDAボードからの信号で直接偏光モードの制御を行ない,トンネル電流およびフィードバック制御信号を検出するシステムに改良した.Ni薄膜を用いたトンネルスペクトル測定において,これまでのシステムに比べ再現性の高いスピン偏極率を検出することが可能となった.さらにSP-STM像では,従来のシステムで観察された試料表面のトポグラフィに依存した信号を有効に抑制でき,スピン信号のみの画像化も可能であることが分かった.
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