研究概要 |
音響システム(特にスピーカシステム)を対象にして,その非線形ひずみを除去し,特性を改善することを目指した.まず,昨年度に引き続き提案手法の有効性を実際のスピーカシステムで検証した.その結果,さまざまなスピーカシステムにおいて非線形ひずみを平均10dB以上低減することができた.ここでは,スピーカシステムの非線形特性をあらわすVolterra核を複合正弦波によって測定した.この手法の特徴は高精度で測定が行えることにある.また,昨年度までとは異なり,測定システムの改良を施すことによって測定時間を大幅に改善することができた.さらに,従来の2次歪み除去だけでなく3次歪みまでも除去するシステムの構築に成功し,実際のスピーカシステムにおいてその有効性を実証した.次に,上記とは異なる測定法である適応Volterraフィルタの適応アルゴリズムに関して検討を行った.具体的には,周波数領域で係数を更新する周波数領域適応Volterraフィルタに関して新アルゴリズムの開発を行った.提案するアルゴリズムは従来のアルゴリズムよりも演算量を削減すると共に,収束速度を大幅に改善することを可能にした.アルゴリズムをコンピュータシミュレーションで検証し,良好な結果が得られた.現在,同アルゴリズムの検証を実システムにおいて進めている.最後に,Volterraフィルタの演算量を削減するために,マルチレート信号処理の導入を検討した.これまで,Volterraフィルタにおいてはマルチレート信号処理を導入した研究例は存在しなかった.なぜなら,Volterraフィルタは非線形フィルタであるため,通常のマルチレート信号処理の技法をそのまま利用することができないからである.しかし,我々はVolterraフィルタへのマルチレート信号処理の導入を世界ではじめて実現することに成功した.その結果,演算量を大幅に削減することが可能となり,本研究の実用化の可能性が大いに進展した.
|