研究概要 |
ヒト視覚系は従来の機械に比べて優れた情報処理機構を有している.これは,ヒト視覚系の情報処理機構が従来の機械にはない特別な仕組みを有しているからと考えられる.本研究は,代表者がこれまでに提案している明るさ知覚に関する現象を記述する視覚情報処理モデルを基に,ヒト視覚系の情報処理機構を模擬した画像処理手法の開発を目的とした. 1.視覚情報処理モデルを利用した新しい2値化法 生理活性物質の微量定量や廃水の毒性評価にヒドラを用いたバイオアッセイが行われている.このバイオアッセイを画像処理により自動化できれば,労力の軽減や客観性の向上が期待できる.画像処理によりヒドラの形態変化を解析する場合,ヒドラと背景の領域分割(2値化)が必要になる.しかし,従来の画像処理工学における2値化法ではヒドラの触手を抽出できなかった.本研究において明るさ知覚の視覚情報処理モデルを利用した2値化法を開発し適用したところ,95%と非常に高い抽出率が得られた. 2.視覚系の動作曲線を利用したコントラスト強調 従来,画像処理工学の分野では,濃淡画像のコントラストの強調を目的として変換前(入力)と変換後(出力)の濃度値を対応付けるトーンカーブを用いた画像変換が行われている.トーンカーブとして,対数関数,指数関数,入力画像の累積ヒストグラム等が用いられる.対数関数,指数関数による変換は入力画像の性質が既知の場合は有効であるが,未知の画像に対して有効とはいえない.また,累積ヒストグラムによる変換は不自然な画像が得られる場合がある.本研究において視覚系の入出力特性(動作曲線)を模擬したトーンカーブを用いて画像変換を行った.事前情報を与えないで処理した結果,累積ヒストグラム法でみられる不自然さを改善したコントラスト強調を行うことができた.
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