研究概要 |
本研究は,100〜500MHzの高周波で強度変調した近赤外光を散乱物質に照射し,検出光の振幅と位相を測定するシステムを構築して,これを生体組織の酸素代謝計測へ応用することを目的としている.検出光の振幅は,酸素代謝による組織の吸収変化に応じて変化し,その感度は対象となる組織を伝播する光の部分実効光路長に依存する.実際の酸素代謝計測では,対象となる筋肉や脳組織の外側に脂肪層や頭蓋骨などが存在する.このような表層組織の厚さが異なることで対象組織の部分実効光路長が変わるため,測定感度が表層組織の厚さに依存するという問題が生じる.そこで,検出光の位相を利用して表層組織の厚さを推定し,対象組織の部分実効光路長を求めることで,感度補正をおこなう方法について検討をおこなった.実験では,筋肉の酸素代謝計測を想定して,脂肪層と筋肉層の2層構造を模擬した生体モデルを作製した.モデルの表層の厚さは2〜10mmとし,入射ファイバと検出ファイバの間隔を10mm〜25mmに変化させたときの位相を,構築したシステムで測定した.この測定結果を,モンテカルロ法によって求めたファイバ間隔と位相の関係にフィッティングすることで表層の厚さを推定したところ,実際の表層の厚さとよく一致した結果が得られた.ヒト上腕部を対象に同様の実験をおこない,表層(皮膚,脂肪)の厚さを推定したところ,超音波断層診断装置で測定した体表から筋肉層までの厚さとよく一致していた.さらに,モンテカルロ法によって表層の厚さと筋肉内の部分実効光路長の関係を求め,酸素代謝による筋肉内の吸収変化に対する検出光の振幅変化の感度補正をおこなった.モデル実験によって感度補正の妥当性について検証したところ,補正をおこなうことで表層の厚さに関係なく筋肉層の吸収変化を正しく求めることができ,検出光の振幅と位相を利用した酸素代謝計測システムの有効性が示された.
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