研究概要 |
研究代表者が設計した痴呆性高齢者グループホーム(3ユニット)において監視カメラを用いて全入居者の行動観察を行った。先行した1ユニット目の一年目の調査と並行して,隣地に2ユニットのグループホームを建設した。この2ユニットでは調査の途中結果も組みいれ,平屋のプランに1棟目同様の以下に示すコンセプトを実現しようとした。(1)視覚効果による生活空間の明確な分節化,(2)入居者による共有空間の選択性,(3)生活空間と管理空間の間の視覚的バリアー,(4)日常生活中の自然なリハビリによる身体能力維持など。さらに3ユニット全体の新たなコンセプトとして(5)ユニット間の擬似的な近隣関係,(6)安全な外部空間を入居者に提供することを試みた。(1)では,洗面台を「トイレが近くにある」サインとし,さらに夜間はトイレ前や居室位置の失認のある入居者の部屋前のスポットライトを点灯することでトイレや居室の失認が減少するという仮説をたてた。各ユニットとも入居直後から,ほとんどの入居者がトイレや居室を間違えなかったが,新しい2ユニットの各1部屋が比較的認知しにくい配置であったこと,トイレ近辺の避難誘導灯の光により,1名の入居者がトイレ自室双方を完全に把握するのに半年ほど要した。しかし,避難誘導灯の光量を下げスポットライトの光量を上げる工夫により,入居後間もない時期からトイレに正しくたどり着ける確率が約1/10から1/3程度まで飛躍的に上がったことで,スポットライトによる光の誘導効果が確認できた。(2)では,人間関係が形成されるにしたがい,状況に応じて共用空間を選択できるように,食堂と居間の双方向の視覚的接続などを考慮し,その効果が各ユニットで確認できた。(3)の視覚的バリアーは,状況設定を工夫することで効果に差異が見られた。(5)(6)については,一つのユニットが閉鎖的に運営せざるを得ない状況になったため,本調査期間中には効果を確認できなかった。
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