平成11年度および平成12年度の2ヵ年にわたる研究を申請し、そのうち平成12年度については、分析対象の資料である建築家ヘルマン・ムテジウスの日本滞在中の書簡の解析および評価を行った。以下、その成果について概要を述べる。 ドイツ工作連盟資料館に保管されている滞日中のムテジウスの書簡は計177通におよび、これらの書簡から本研究の目的とする下記の3事項について有益な情報を得ることができた。 1)ムテジウスの日本の建築・文化に対する視点 書簡のなかには、ムテジウスの滞日中の住まいとなった住宅の間取りが描かれ、日本での生活の様子を知らせている。また、違い棚や小舞壁のスケッチなど、室内空間の造作や構法などへの関心も伺われ、その内容は家族や友人に近況を知らせるといった次元を超えて、日本の建築、文化に対するムテジウスの視点を示唆するものである。 2)エンデ&ベックマン事務所においてムテジウスが果した役割の明確化 ムテジウスは定期的に、エンデ&ベックマン事務所における業務報告を本国建設省へ送付しており、残された報告書の草案からエンデ&ベックマン事務所による官庁集中計画の一端を明らかにすることができる。 3)ドイツ・プロテスタント教会の設計について ムテジウスの処女作品となった東京、麹町のドイツ・プロテスタント教会に関しては、書簡のなかでその設計途上の案や採光方法、ドームの架構法などについて記されており、設計経緯についての情報が得られる。また、多くの図面・写真類が残されており、その詳細を知ることができる。 なお本研究の成果は、2002年秋に京都国立近代美術館および東京国立近代美術館を会場として開催が予定されている展覧会「近代の胎動:ヘルマン・ムテジウスとドイツ工作連盟-ドイツにおける建築・デザイン改革運動1900-1930(仮称)」において公表される予定である。
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