研究概要 |
高比強度を有するチタン合金の中で,Ti-20mass%Mo合金焼入れ材は,変形によって加工硬化しない特異な変形挙動を示す.このメカニズムを探るため高温引張り試験を行ったところ,623K以上では加工硬化することがわかった.一方でそれより低Mo濃度のTi-14mass%Mo合金の高温引張り試験の結果は,20Mo合金の室温引張りとよく似た変形挙動を示し,Mo濃度と変形温度に正の相関があることが明らかとなった.光学顕微鏡による変形組織もその関係からうまく説明できた. 透過型電子顕微鏡による内部微細構造を観察したところ,20Mo合金の室温状態では,全体に不整合ω相が形成されていたが,クラック先端部のような応力が集中した領域では,整合ω相に構造変化していることがわかった.この整合ω相はあるバンド状の領域内で形成されており,このような箇所で変形が集中するため,局所変形を誘発し,巨視的には加工硬化しない現象であることをつきとめることができた.応力増加に伴うω相の不整合から整合変化は,降伏応力を増大させることを予測させ,実験事実とともよく一致していた.単結晶を用いて電子顕微鏡内引張りその場観察を試みたが,バルクと薄膜では応力状態が異なるため,ω相の構造変化を連続的にとらえることはできなかった. 一連の結果からβ型チタン合金の変形特性を,組成・温度・応力のパラメータから理解することができ,その確証を得るためTi-Nb合金についても同様の実験を行った.その結果,Ti-Nb合金は温度感受性が高く,42%Nb合金では77Kから373Kの温度範囲内で,14Moの室温から20Moの高温挙動と同等な変形を再現することができた.従って,β型チタン合金の変形挙動はω相やマルテンサイトなどの準安定相の状態に支配され,加工硬化しない現象はω相の応力誘起変態が関与していることを明らかとした.
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