本研究では、磁性に起因する力学的性質の向上のメカニズムを解明する目的で種々の組成のFe-Co合金を磁気変態温度以下あるいは磁気変態温度以上の温度で高温引張試験を行った。また、比較のため、Fe-Cr合金の高温引張試験を行い、Fe-CoおよびFe-Cr合金の磁気モーメントの違いに注目して両者の変形挙動を比較検討した。強磁性温度領域ではFe-Co、Fe-Cr合金ともに合金濃度の増加とともに変形応力が増加し、一方、常磁性温度領域では、ほとんど変形応力の合金濃度依存性は現れなかった。Feに対するCo原子およびCr原子の原子半径差は小さく、変形応力の濃度依存性は、一般に知られている溶質雰囲気引きずり機構による固溶強化現象とは考えにくい。さらに、強磁性温度領域でのみ変形応力の濃度依存性が現れることを考えると、磁性に起因した強化であるものと考えられる。変形後の転位組織観察では、変形応力の増加とともに転位密度は増加し、亜結晶粒径は減少した。転位密度と変形応力の関係は強磁性温度領域と常磁性温度領域では異なり、転位密度の変形応力依存性は強磁性温度領域の方が大きく、常磁性温度領域から外挿される転位密度よりも強磁性温度領域での転位密度の方が高かった。したがって、磁気変態温度を境に転位運動様式が異なっている可能性が高い。本研究で行った合金濃度範囲においては、Fe基合金の磁気モーメントは、合金濃度の増加とともにFe-Co合金では増加し、Fe-Cr合金では減少する。このことは、磁気モーメントの大きさと磁気固溶強化との間には相関が無いことを示している。ところが、純Feからの磁気モーメントの変化の絶対値を用いた場合、強化の度合いと磁気モーメントの変化の絶対値との間には相関が見られた。したがって、純Feからの磁気モーメントの変化がFe基合金の磁気固溶強化現象と密接な関連があるものと考えられる。
|