研究概要 |
本研究は、アークイオンプレーティング型PVD処理装置による多層膜コーティングを有する工具を作製し、優れたトライボロジー特性を有するPVD多層被膜処理工具の開発を目的としている。本年度は硬質被膜のトライボロジー特性の調査を中心に行った。 基材SKD11上に、一定の成膜条件で膜厚3μmのTiNを生成した試験片の摩擦係数と摩耗率をボール・オン・ディスク摩擦・摩耗試験機を用いて測定した。摩擦・摩耗に影響を及ぼす摺動条件(回転半径、回転速度、垂直荷重、摺動距離)を変化させ、その依存性を調べた。その後、摩耗痕を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて観察し、さらにEDSにより凝着物の構成元素なども調査した。その結果、1)摩擦係数、ボールの摩耗率は摺動条件(回転半径、回転速度、摺動距離、垂直荷重)に依存した、2)ボールの材質としてSUJ2とSUS304を用いた場合、TiNを成膜したディスクに摩耗は見られなかった、3)摩擦、摩耗特性は成膜後の試験片の表面粗さが大きく影響する、といった知見が得られた。 また、成膜中のバイアス電圧を変化させることによりTiN被膜の配向制御を行った。これら被膜のトライボロジー特性を上記と同様の調査を行った。その結果、1)成膜後の表面粗さはバイアス電圧の増加とともに減少した、2)微小硬さはバイアス電圧の増加とともに増加し、スクラッチ臨界荷重はバイアス電圧により大きく変化しなかった、3)バイアス電圧が20,50,100Vのときと比較すると150,200Vでは良い摩擦特性を示し、バイアス電圧の増加とともにボールの摩耗特性も向上した、という結果を得た。 昨年度および本年度に得られた結果より、中間層を導入し密着度を向上させ、結晶配向を制御することにより、本研究目的を達成し得る硬質被膜作製技術を確立するための指針が得られた考えられる。
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