研究概要 |
局所的分子運動に外場を作用させることによるガラス状態への影響について検討を行った.本研究では新写真システム(APS)のベースフィルムとして用いられているポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)に着目した.PENはガラス転移温度直下に非常に低周波数の分子運動が存在することが知られていたが,前年度までの研究によりこの分子運動がナフタレン環の運動であることが明らかになった.さらにナフタレン環のパッキングをナフタレン環の分子運動と同程度の交番電場を印加することにより抑制できることを明らかにしてきた. 本年度は結晶化したPENフィルムにおいてエンタルピー緩和およびエンタルピー緩和における電場の影響について検討を行った.結晶化試料では急冷試料に比べてエンタルピー緩和が非常に少ないことがわかった.結晶化試料では急冷試料に比べてガラス領域が少なく,それに伴って余剰エンタルピーも減少する.しかしながら実際のエンタルピー緩和量は結晶化度の変化に比べて著しく減少した.これは結晶の存在に伴いガラス領域が質的に変化したことを意味している. 交番電場の印加によるエンタルピー緩和への影響は急冷試料の場合とは異なった.急冷試料の場合には熱処理初期で大きな抑制効果が見られたが,結晶化試料では優位な差は見られなかった.これは結晶が存在することによりガラス領域が変化したことによるものと思われる.エンタルピー緩和の抑制はナフタレン環の運動の効果であった.つまり結晶化試料中のガラス領域では,すでにナフタレン環の運動が抑制されるような構造が形成されているものと考えられる.
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