1.目的 2層成形接合は、同一金型内で材質の異なる粉末を2層に充填し圧縮成形した後、焼結により異種材を接合させる方法で、接合界面で成形時に異種粉末が機械的に絡み合うため強固な接合界面が得られると期待できる。しかしながら、接合させる2つの材料間に焼結に伴う寸法変化量に大きな差があると、接合界面近傍で残留応力やクラックが発生することが予想される。そこで本研究では、低合金鋼と高速度工具鋼(HSS)の2層成形接合において、高速度工具鋼の炭素含有量を変化させることにより、寸法変化量の差が接合挙動に及ぼす影響を調査した。また、HSSの炭素量を多層成形により傾斜化し、接合部の寸法変化の差を制御した接合テストを行った。 2.実験方法 低合金鋼粉アトメル4600と水アトマイズHSS粉M2を用い、接合材としてHSSでは、接合材の炭素含有量が0.9〜1.3mass%となるようにHSS粉M2に黒鉛粉を添加して混合した。多層成形では、低合金鋼の粉末と炭素量の異なるHSSの粉末を5層に充填して成形圧600MPa圧縮成形した。焼結は、真空度約10^<-2>Pa、焼結温度1493Kで行った。接合材は、3点曲げ試験により破断強度を評価した。 3.結果 HSSの炭素量が多くなると、緻密化するが寸法収縮量が大きくなり、低合金鋼との焼結時の寸法変化量の差が大きくなった。2層成形接合において、いずれ接合材において良好な接合界面組織が得られたが、炭素量が1.2mass%以上のHSSの接合材では、接合界面近傍でHSS側の表面部にクラックが観察された。HSS材のみの3点曲げ破断強度は、炭素量が増加するにしたがって増加したが、2層成形接合の破断強度は、HSS材のみの破断強度より低く、炭素量が増加すると、0.9mass%から1.1mass%までは若干増加するが、1.2mass%以上では反対に低下した。HSSの炭素量を傾斜させた多層成形接合の破断強度は2層成形接合よりも低くく、その破断部は接合界面から数百μm離れたHSS側であった。
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