研究概要 |
本研究は,バイポーラー膜により生じる電気的な水解離現象を利用し,電気透析槽内に安定なpH勾配を設けるための基礎技術の確立,ならびにその勾配を分離の場として利用することを目的として行われた。 電気透析槽内に安定なpH勾配を設けるためには,バイポーラー膜から生成する水素イオンの膜透過速度を槽内の各室間で制御する必要がある。そのため,使用する電解質の種類,濃度の他,電流密度,溶液中に存在する他の物質の影響を明らかにすることが重要であることから,はじめにpH勾配の形成条件と種々の操作条件との関係について調べた。その結果,各室のpHを任意の値に設定するためには,陽イオン交換膜を用いて低pH勾配を形成させる場合には溶液中の陰イオンの濃度が,また陰イオン交換膜を用いて高pH勾配を形成させるためには,溶液中の陽イオンの濃度がpH勾配を形成させるための最も重要な操作条件であることがわかった。 次ぎに,上記の手法で得られるpH勾配を各室間で2〜4の範囲になるような条件の下で運転し,分離への応用の一例として酸性アミノ酸であるリシンと中性アミノ酸のメチオニンの相互分離を試みた。リシン,メチオニンとも,pH2付近においては正の荷電を有するため,pHを2に設定した室からは両アミノ酸ともpHを3に設定した室へ透過したが,メチオニンはpHを3に設定した室から他の室へは透過せずリシンのみが選択的に透過した。この結果より,本手法により形成したpH2-4の勾配を用いることにより,リシンとメチオニンの相互分離が良好に達成されることが明らかとなった。 以上の結果を基に,溶液の電気的中性条件,溶液の解離平衡,溶液-膜間のイオン交換平衡さらには膜内の透過速度を考慮に入れたモデルを構築し解析を行った。その結果,モデルによる解析値と実験結果は良好に一致し,本手法における任意のpH勾配を形成するための条件,ならびにリシンとメチオニンの分離挙動を予測することが可能となった。
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