研究概要 |
代表的な無機系殺菌剤である二酸化チタンに用いた光触媒殺菌は,光照射により励起された触媒表面上で生じる活性酸素により,細胞が損傷を受けることにより進行すると考えられている.しかしながら,活性酸素による細胞死滅に対して,細胞内の状態がどのように影響を与えるかについては,いまだ不明な点が多い.本研究では,大腸菌MM294株とそのsuperoxide dismutase(SOD)欠損株であるIM303株における二酸化チタン光殺菌での死滅様式の差に着目し,細胞内SOD活性と殺菌効果の関係を検討した. 種々の光強度での殺菌実験において,野生株(MM294)とそのSOD欠損株(IM303)の細胞生存率経時変化を調べたところ,SOD欠損株では光照射時間に対して直線的に細胞生存率が減少するのに対し,野生株では照射開始初期にラグタイムを有することがわかった.そのため,細胞生存率の経時変化に及ぼすSOD活性の影響を検討した.様々な初期SOD活性を持つMM294細胞を殺菌実験に供し,得られた細胞生存率経時変化に対し,series-eventモデルの適用を行い,致死攻撃数nを求めた.その結果,各致死攻撃数nと初期SOD活性には,良好な比例関係が見られた.以上より,二酸化チタン光殺菌における細胞死滅には,細胞内SOD活性が関与していることが示唆された. 次に,i段の攻撃を受けて生じるM_i個の細胞は,攻撃数iの増加に伴い,SOD活性が減少しているとするモデルを考え,MM294株の光殺菌における平均の細胞内SOD活性の経時変化を,nと初期細胞内SOD活性の比例関係を考慮して計算した.計算により求めた平均の細胞内SOD活性値は,実験値と良好に一致したことから,このモデルが妥当であると考えられた.
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