研究概要 |
天然水中に溶存する重金属元素の化学形態を明らかにするため,キレート抽出法と接触分析法を用いて,天然水中の銅(II)のスペシエーションを試みた.テノイルトリフルオロアセトン(TTA)による銅(II)の抽出反応の平衡論的解析法を用いて,天然水の銅(II)錯化容量と生成する銅(II)錯体の条件安定度定数の同時定量法を開発し,湖沼水試料と河川水試料に応用した.その結果,天然水には銅(II)と安定度の異なる錯体を形成する2種類の配位子が溶存していることが明らかとなった.検出された2種類の配位子のうち,銅(II)と安定な錯体を形成する配位子の条件安定度定数の値は10^<10>のオーダーであり,銅(II)のニトリロ三酢酸錯体の安定度と同程度であることがわかった.また,湖沼水と河川水の銅(II)濃度を測定し,平衡計算によりそれらの試料水中の銅(II)の溶存形態を推定したところ,銅(II)のほとんどは安定度の大きい錯体を形成する配位子と結合した状態で溶存していることが明らかとなった.さらに,土壌から抽出したフミン酸を溶解した試料を用いた測定結果から,天然水中で銅(II)の錯形成に関与している配位子はフミン酸であることが示唆された.次に,より汎用性の高い方法として,色素生成反応に及ぼす銅(II)の接触作用を利用した銅(II)の接触分析法を指示反応に用いたフローインジェクション法を開発し,河川水試料の銅(II)のスぺシエーションを行った.その結果,溶存銅(II)の73%はlabileな化学種,27%はinertな化学種として溶存していることがわかった.
|