研究概要 |
申請者らはイリジウム、ロジウムおよびルテニウムなどの8族の低原子価ヒドリド錯体がルイス酸および塩基両方の機能を有する優れた複合型触媒となることを既に見出している。申請者らは、これらの金属を中心金属として有する複核錯体を創製することができれば、それら2つの金属核が形成するルイス酸点および塩基点の協同効果に基づく新しい触媒反応を構築することが可能になると考え、複核構造の構築が可能な新しい4座配位子およびそれを配位子とする複核ヒドリド錯体の開発と、それらを用いた触媒反応の開拓を目的とした研究を行った。 申請者は2つの触媒サイトが反応過程の基質の構造変化に合わせて柔軟に可動できるinduce-fit型の触媒作用を発揮できる2核錯体を構築するために、回転自由度の高いメチレンスペーサーでホスフィノエタンアミン部分を結合した新規な4座配位子3,5-Diphenyl-3,5-diphospaheptane-1,7-diamine(1)を設計し、その合成を行なった。その結果、リンおよび窒素原子を配位部位として有する新規なPN4座配位子1をmeso(RS)/racemic(RS/SR)混合物として得ることに成功した。 さらに、申請者は得られた配位子1をイリジウムもしくはロジウムのクロロ錯体[(C_5Me_5)_2MCl_2]_2(M=Iror Rh)、および[(C_5Me_5)RuCl]_4と反応させることにより、対応する複核イリジウムクロロ錯体およびロジウムクロロ錯体[(C_5Me_5)_2Ir_2Cl_2]Cl_2、[(C_5Me_5)_2Rh_2Cl_2]Cl_2およびルテニウムのアミド錯体(C_5Me_5)(NCCH_3)RuNHCH_2CH_2P(Ph)CH_2P(Ph)CH_2CH_2HNRu(NCCH_3)(C_5Me_5)が得られることを明らかにした。単結晶X線結晶解析による分析の結果、得られた2核錯体はリン原子と窒素原子が一つの金属に架橋配位(PN架橋配位)した単核錯体がメチレンスペーサーによって繋がれた複核構造を形成していることが明らかとなった。また、申請者は得られた2核クロロ錯体をメタノール中で水酸化カリウムと反応させることにより目的とする複核ヒドリド錯体が得られることを見出した。また、これら錯体のメチレン部分で架橋された金属部分が溶液中でフレキシブルな挙動を示すことを見出している。
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