研究概要 |
申請者は,キュウリの根域低酸素耐性は,アルコール・乳酸発酵が抑制され,リンゴ酸が蓄積し,細胞質アシドーシスが回避されるという根の代謝的適応によることを明らかにした(郭,1998).一方,生体アミンであるポリアミンが,根域低酸素ストレス下における細胞液pHを上昇させるという指摘がある.本研究では,根域低酸素における代謝的適応に対するポリアミンの関与の可能性と作用機作について検討した.キュウリ根では,低酸素処理後のポリアミン合成が著しく活性化されるのに対して,トマト根では活性化されなかった.また,低酸素による生育抑制程度は,キュウリではポリアミン合成阻害剤前処理によって高まり,トマトではプトレシン前処理によって低下した.これらのことは,低酸素によるポリアミン合成の活性化が根域低酸素耐性機構と何らかの関連があることを示唆する.低酸素ストレス下でのキュウリ根の細胞液pHはポリアミン合成を阻害しても低下せず,ポリアミンによる細胞液pH調整能は確認できなかったが,このことについては細胞質レベルでの確認が必要であると思われる.トマト根のPEPカルボキシラーゼ活性には処理間差が認められず,プトレシン前処理によってリンゴ酸代謝は活性化されなかった.一方,トマト根のピルビン酸キナーぜ,ADHおよびLDH活性は,低酸素処理によって著しく増加したが,プトレシンを前処理するとこれらの酵素活性の増大程度が小さくなった.一般に,根でのADHおよびLDHの活性化とそれによる細胞質へのエタノールおよび乳酸の蓄積が,根域低酸素による根の生長抑制の主な要因であるとされている.したがって,根域低酸素下でのプトレシン前処理による生育促進とADHおよびLDH活性低下との間に何らかの因果関係があると考えられる.
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