研究概要 |
観賞価値の高い変わり葉ヤブツバキ品種の作出を目的として,三倍体品種'熊谷'を利用した倍数体間交配をおこなった.二倍体と三倍体との正逆交配をおこなった結果,三倍体を種子親にした場合には発芽力のある種子を多数獲得できたが,三倍体を花粉親にした場合にはほとんど種子が得られなかった.二倍体と三倍体の花粉稔性を比較したところ,三倍体の方が二倍体よりも完全花粉の割合が少なく人工培地上での発芽率も低いことが明らかになり,二倍体と三倍体との正逆交配における交雑親和性の違いは,花粉稔性の違いが反映されたものと推察された. '熊谷'を種子親として得られた実生には,盃葉,皮針形の葉,深い鋸歯をもつ葉など多くの形態変異が見られた.また,節間が非常に短くなるわい性個体も出現した.これらの個体と交配親とを供試してAAT,PGM,SKDHの3種類の酵素(3遺伝子座)についてアイソザイム分析を行ったところ,少なくとも1つの遺伝子座において遺伝子型の倍数性が他の遺伝子座の倍数性と異なる個体がみられ,異数体であることが確認できた.また,三倍体品種'熊谷'と二倍体数品種の根を供試したフローサイトメーターによる分析により,ツバキの倍数性を容易に判別できることが分かったため,'熊谷'の実生についても分析を行った.その結果,体細胞のDNA量が明らかに整倍数体とは異なる個体が多数みられたことから,これらの個体も異数体であることが判別できた.さらに,フローサイトメーターの結果とアイソザイム分析の結果とで,異なる倍数性を示す個体も出現したことから,これらの個体も異数体である可能性が高い. 以上の結果から,三倍体品種'熊谷'の実生には多くの異数体が含まれ,高頻度で変わり葉個体が出現することが明らかになった.
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