研究概要 |
植物ホルモン型除草剤の1つであるquincloracは、その薬剤に感受性である植物に処理されると、大量のエチレンが生成されることが知られており、そのエチレン生合成系が殺草作用と密接に関係している可能性が高いことが知られている。近年、報告者らは、この薬剤に感受性を示すイネ科植物では、その現象は光照射下で特異的に発現する可能性があることを初めて見出し、さらに、光照射時に生成された多量のエチレンやシアンが葉部でのクロロシスの原因となっている可能性が高いことを報告した(Sunohara,Y.and H.Matsumoto;1997)。また、quincloracの光誘導によるエチレン発生量や薬効は、薬剤処理前と処理後の温度に大きく影響を受けること等も報告してきた(Sunohara,Y.et al.,1999)。これらの知見をふまえ、本年度では、さらにそのエチレン誘導の詳細を調べることを目的とし、エチレン誘導までの過程における"活性酸素"の関与について検討を行った。 試験は、フリーラジカルの消去剤、一重項酸素の消去剤、そしてヒドロキシルラジカルの消去剤を各々1剤ずつquincloracとともに処理することにより行った。Quinclorac処理したトウモロコシ葉部からのエチレン発生量(光照射下)は、フリーラジカルの消去剤、一重項酸素の消去剤、ヒドロキシルラジカルの消去剤のいずれの処理でも抑制されず、濃度変化によっても傾向は変わらなかった。さらに、アンチオーキシン剤であるPCIBをquincloracとともに処理するとquincloracによるエチレン発生が減少する傾向が認められたことから、quincloracによるエチレン誘導は、活性酸素による傷害誘導ではなく、オーキシン誘導によるものである可能性が示唆された。しかながら、他方、"活性酸素による傷害誘導"である可能性を示唆する結果も得られており、現在、quincloracによって誘導されるACC synthase(エチレン生合成のキー・エンザイム)を分子レベルでさらに解析しているところである。
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