研究概要 |
種々の環境ストレス(強光、乾燥、酸化的ストレスなど)による障害のほとんどが活性酸素に起因しており、最終的に植物の物質生産の大きな律速因子となる。したがって、環境破壊や近未来に訪れる食糧危機に対して、環境ストレス耐性能および物質生産能を向上させた形質転換植物の創製が急務となっている。これまでに、当研究室では大腸菌カタラーゼ遺伝子(katE)を葉緑体に導入した形質転換タバコは乾燥/強光ストレス耐性を示すことを明らかにしている(FEBS Lett.,428,47-51,1998、蛋白質 核酸 酵素,575,623-724,1998)。そこで本研究では、如何なる環境ストレス条件下でも生育可能な植物(作物)を作製し、最終的に植物(作物)の生産能を向上させることを目的に、1)大腸菌カタラーゼ遺伝子(katE)導入タバコとH_2O_2耐性能を有するラン藻のカルビン-ベンソン回路の律速酵素FBP/SBPase遺伝子導入タバコの交配、2)H_2O_2耐性のラン藻のカルビン-ベンソン回路の構成酵素遺伝子を連結したベクターの構築を試みた。 (1)大腸菌カタラーゼおよびラン藻FBP/SBPaseの導入 katEを葉緑体に導入した形質転換タバコとラン藻FBP/SBPase遺伝子を葉緑体に導入した形質転換タバコの交配種(TKFS)を作出した。得られた交配種のうち2系統で両導入遺伝子fpb-、katE)をPCR法により確認した。その中で、TKFS-13のカタラーゼ活性およびFBPase活性は野生株の1.39±0.24倍、1.29±0.25倍に上昇していた。播種後10週目より通常の培養条件下(300μE/m2/s、25℃、RH60%)もしくは強光条件(1000μE/m2/s)下で栽培し、播種後14週目の両株の植物体の高さを測定し比較した。その結果、培養条件下での形質転換体の高さは野生株の1.4±0.1倍、強光条件下では1.6±0.1倍であった。 (2)カルビンサイクル関連酵素遺伝子の多重導入系の確立 多重遺伝子の導入系の確立は、プラスミドの構築など多くの点でこれまで困難とされてきた。我々はまずラン藻のFBP/SBPase、PRK、GAPDHをタバコ葉緑体内で効率よく発現させるために、それぞれの遺伝子上流にはトマトのRubiscoの小サブユニット遺伝子(rbcS)のプロモーターとトランジットペプチドのコード領域を、下流にはノパリンシンターゼ(nos)のターミネーターを連結した遺伝子カートリッジを構築した。さらに、これらのカートリッジをバイナリーベクターpBIKT121.1に連結した多重導入プラスミドの構築に成功した。
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