研究概要 |
本研究では、光合成細菌が、嫌気条件、DMSO存在下、DMSO呼吸を行う際にペリプラズム空間に誘導合成するDMSO還元酵素の高い鏡像選択性に着目し、菌体を直接用いた、光学活性スルホキシド調製を行った。具体的な実験結果を以下に述べる。 Rhodobacter sphaeroides f.sp.denitrificansは、基質となる合成スルホキシドを含んだ培地では、その毒性から菌は十分に生育できなかった。そこで、DMSOを含んだ培地で菌を生育させ、菌体がペリブラズム空間にDMSO還元酵素を十分誘導合成した状態で、合成スルホキシドを添加することによって、菌体による鏡像選択的還元を達成することができた。メチルフェニルスルホキシド(MPSO)や、MPSOのベンゼン環のパラ位にMe-,MeO-,Br-といった置換基の付いた基質で、(R)-体のスルホキシドが高い鏡像体純度で回収された。また、MPSO,MTSOと言った基質でグラムオーダーでの光学活性スルホキシド調製に成功した。アルキル基がEt,Prなど反応速度の遅い基質では、菌が溶菌し、目的とする反応が十分進行しなかったが、定常期の菌体を用いることにより、反応の効率が改善された。さらに、菌体反応を2回繰り返すことでEPSOでも鏡像体純度>99%のものを回収することができるようになった。一方、DMSO還元酵素の立体選択性についての研究では、基質のベンゼン環をナフタレン環、ピリジン環にしても、その鏡像選択性が極めて高いことが明らかになり、DMSO還元酵素の鏡像選択性に基質の芳香環と酵素側の芳香族アミノ酸残基のスタッキングが関与している可能性が示唆された。実際にどの芳香族アミノ酸残基が関与しているかについては今後の研究課題である。 本研究では、不斉有機合成において有用な光学活性スルホキシドをグラムオーダーで調製可能な生体触媒反応系を開発することに成功した。特に、MTSOといった汎用光学活性スルホキシドの調製だけでなく、光学活性フェニルビニル、フェニルプロペニルスルホキシドなど通常大量調製が難しい基質についても、その調製に成功した。また、広範なスルホキシドを基質として用いることにより、酵素の基質特異性についてさらに、多くの知見が得られた。
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