研究概要 |
本年度は,タイ南部の湿地周辺に自生するSyzygium属5種を主に実験材料とした。5種のうち,比較的非湿地環境に生育するS.grandeとS.pseudosubtilisは,湛水処理によって地上部の成長が抑制されたのに対し,より湿地環境に生育するS.oblatumとS.kunstleri,S.spicatumは,対照区と比べて成長が大きくなる傾向があった。いずれの樹種も湛水耐性をもっているが,その程度に違いがあり,それが分布域の違いに反映されていると推察された。またいずれの樹種でも,湛水処理に伴い通気組織に富む不定根を水面近くに発達させており,それらの根のエネルギー充足率が高く維持されされていることが明らかになった。 また,主根の気相率を測定することによって通気組織の定量化を試みた。S.grandeは湛水の有無に関わらず気相率が低かったが,他の4樹種は湛水処理によって気相率が増加した。特にS.oblatumとS.kunstleriは湛水せずとも気相率が比較的高かった。さらに,湿地性樹種の,特に湛水処理開始後に発達した側根では,高いエネルギー充足率を維持していることが明らかになった。一方,湛水耐性の比較的低い樹種では,醗酵系を司るアルコール脱水素酵素の活性が湛水処理初期に高まることが明らかになった。 非湿地性の樹種でも,一時的な短期間の湛水に対しては,不定根の発達や無気呼吸系が賦活化によって根系の機能を保てるが,湿地性の樹種では,さらに地中深くに発達させた根系での好気呼吸が確保されるため,より長期間の湛水に対して根系の機能を維持できると考えられる。
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