研究概要 |
森林生態系の物質循環を長期観測する目的で20年前に設置されたスギ・ヒノキ壮齢林小流域試験地において,無機元素だけでなく溶存有機物も含めた物質循環特性を調査した。まず,リターフォール,林内雨,樹幹流,A_0層通過雨・表土層通過雨,土壌水を分析し,近傍の落葉広葉樹二次林の物質循環と比較・検討した。また,地表面CO_2フラックスおよび土壌中CO_2濃度(深さは土壌水と同じ)の調査もおこなうとともに,地温および土壌水分(を測定した。さらに,湧水・渓流水を分析し,全国の森林地域における渓流水質とともに考察した。その結果,本試験地を降雨に伴って移動する溶存有機態炭素量(DOC)濃度は,夏期に林外雨<林内雨<樹幹流・A_0層通過雨と高まり,A_0層通過雨>表土層通過雨>土壌水・湧水と渓流水に至るまでに激減し,特に表土層通過雨と土壌水5cm間の減少が著しかった。これは,落葉広葉樹林での溶存イオンの陰イオン不足分(CBD)も同様で,CBDの主体が有機陰イオンであることを示唆した。地表面CO_2フラックスおよび土壌中CO_2濃度の高まりもDOC同様,夏期に高く,DOCは易分解性の有機物として林木やA_0層から溶出し,表土層において微生物によりただちに消費され,森林生態系においてその大部分が内部循環している考えられる。本試験地を含め全国の森林地域における平水時の渓流水はpHが中性に近く,CBDの主体がHCO_3^-となりDOC(有機陰イオン)濃度は低かった。一方,降雨イベントによる出水時の渓流水では,出水初期にDOCやNO3-濃度が上がり,他のイオン濃度は低下した。これは,出水時に地表面近くから渓流への流入を示唆している。しかし,本試験は壮齢の生態的に安定した流域であるため,出水後のDOCやNO_3^-濃度の低下が速く,これらの年間流出量に占める割合は低いと考えられる。今後,試験流域の一部伐採など(特に渓流附近の),森林管理による影響調査をおこなう必要がある。
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