研究概要 |
近年の環境条件の急速な変化に伴い,水圏生物は種々の環境ストレスを受け,代謝や生長が強く影響されていると考えられるが,海藻のストレス応答反応についてはほとんど報告されていない。申請者はこれまでに,温度ストレスを受けた不稔性アオサが,グルタミン酸脱水素酵素(GDH)アイソザイムを発現することを明らかにした。さらに,cDNAクローニングにより,447アミノ酸から成るGDH-L,およびその一部領域の欠失したGDH-Sをコードする2種類のcDNAクローンを単離した。 遺伝子解析の結果,GDH-Lは藻体内で恒常的に発現しているのに対し,GDH-Sは高温培養時に特異的に発現すること,GDH遺伝子はゲノム上に複数存在することが明らかとなった。また,GDHアイソザイム間の性状の違いを詳細に検討するために,GDH-LおよびGDH-Sの大腸菌発現ベクターを構築した。 一方,10℃,20℃および30℃培養藻体の全RNAから1本鎖cDNAを合成し,これらを鋳型として9種の任意プライマーを用いたディファレンシャル・ディスプレイを行ったところ,各培養藻体間で18種のmRNAの発現量に差が認められた。さらに,5種につきcDNAクローンを単離し塩基配列解析を行ったところ,うち4種はoxygen-evolving enhance protein2,sedoheptulose-1,7-bisphosphatase,RIESKE iron-sulfer protein, proteasome β subunitと高い相同性を示したが,他1種は既報の遺伝子と相同性を示さなかった。発現解析により,温度ストレス特異的にsedoheptulose-1,7-bisphosphataseの発現量が減少し,それ以外の発現量は増加することが示された。 今後は,不稔性アオサGDH-LおよびGDH-Sの一次構造と性状の関係を調べると共に,温度ストレス応答反応に関与する遺伝子のさらなる単離・同定を行う予定である。
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