研究概要 |
口之島野生化ウシは,古代和牛の形質を受け継ぐといわれる貴重な遺伝資源のウシであるが,現在絶滅の危機にある。本研究では,この希少な日本在来ウシを保護・増殖するための基礎的研究として,個々の雌において卵巣の連続した超音波画像診断により卵巣内の卵胞発育動態を調べ,口之島ウシの卵巣機能を視覚的に解析した。同一雌の連続した発情周期に渡る卵巣内の卵胞発育動態を調べるとともに、肉眼的に発情徴候を観察した。F1種(黒毛和種×ホルスタイン種)の雌では、ほぼ一定間隔で明瞭な発情がみられた。各発情周期中の卵巣内に確認された卵胞をその直径により小型卵胞(2mm以上5mm未満)、中型卵胞(5mm以上10mm未満)および大型卵胞(10mm以上)に分類したところ、同一雌の各発情周期中に卵胞波(中型卵胞群の発育・閉鎖退行による)が2回ないし3回みられ、各波においておおむね1個の大型卵胞(優勢卵胞)が出現した。各発情周期の最終卵胞波の優勢卵胞(反黄体側卵巣に多く出現)が排卵し、同部位に黄体の形成が認められた。同一雌の卵胞発育動態は、連続した発情周期に渡ってほぼ同様であった。一方、口之島ウシの雌でもほぼ一定間隔で発情の回帰がみられたが、発情徴候(粘液の流出、外陰部の腫脹・弛緩、出血)の発現具合が弱い傾向にあった。これらの雌でも、F1種と同様に各発情周期中に卵胞波の出現、優勢卵胞の出現、最終卵胞波における優勢卵胞の排卵および黄体形成が確認され、各雌の卵胞発育動態は連続した発情周期でほぼ同様であった。しかしながら、F1種に比べて、各発情周期中の小型・中型卵胞の平均数が少なく、優勢卵胞および排卵卵胞の最大直径、形成された黄体の最大直径が小さい傾向がみられた。
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