研究概要 |
哺乳動物卵のmaturation-promoting factor(MPF)とmitogen-activated protein kinase(MAPK,ERK)は,減数分裂再開に伴い活性化され成熟卵では活性型で維持されている。そして,受精時の卵活性化刺激によりMPFとMAPKは不活化される。MPFとMAPKの正常な不活化を人為的に誘導することは,哺乳動物卵におけるクローン動物作成等を始めとする発生工学をさらに発達させる点において非常に重要である。そこで,本研究は,人為的に活性化した卵をPD98059(PD;MEK阻害剤)やLY294002(LY;PI3-kinase阻害剤)で処理することで,MPFとMAPKの不活化に伴う核相の変化および単為発生に対する卵活性化時のMAPK活性化機序の影響について検討した。 直流パルス(60V/mm,30μsec,2回)の活性化刺激を与えた卵を50μM PDで処理した場合,MPFとMAPKの不活化が同時に起こり第二極体の放出が抑制された(35%)。そして,結果として倍数体胚となる2前核卵が無処理区(11%)に比べて42%に有意に増加したものの,胚盤胞期への単為発生率においてPD処理区と無処理区の間で差はなかった。一方,50μMLYで処理された活性化卵においては,無処理区と同様にMPF活性の低下から2時間ほど遅れてMAPK活性が減少した。しかし,無処理区MPF活性の低下(57%)に比較して,LY処理区のMPFは47%にまで著しく低下した。また,cytochalasin B(CB)+LY処理区は41%の胚盤胞期発生率を示し,CB単独処理区(16%)に比べて有意に高い値であった。 以上の結果から,MEKのリン酸化に伴う作用機序が,卵活性化時のMPFとMAPKの不活化に関与すると共に,正常な卵活性化の誘導に重要な影響を及ばしている可能性が推察された。
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