研究概要 |
心停止などの短時間脳虚血のあとに一時的に回復をみた患者の脳では、しばしば海馬CA1領域の錐体細胞の崩壊をきたす。この現象はスナネズミ両側頚動脈閉塞による一過性前脳虚血モデルにより再現され、海馬CA1領域に、数分間の前脳虚血後約72時間より錐体細胞死をきたしdelayed neuronal death(DND)と呼ばれている。我々はこれまでDNDがアポトーシスによることを明らかにし(Brain Res 806:274-277,1998)、低体温(Neurol Res 17:461-464,1995)あるいは薬剤によるDNDの抑制効果について、これまでのわれわれのスナネズミ一過性脳虚血モデルにおける海馬CA1領域の遅発性神経細胞死の研究をもとに、当大学薬理学教室の協力を得て、アポトーシス抑制物質、蛋白質分解酵素阻害剤(N-tosyl-L-phenylalanyl chloromethyl ketone;TPCK)の投与量、投与条件を模索しながら、スナネズミ一過性脳虚血モデルにおいて、遅発性神経細胞死をTPCKにより防御することの有効性を証明した(J Cereb Blood Flow Metab 18:819-823,1998)。今年度の研究実績としてさらにブドウ糖代謝阻害剤である2-deoxy-D-glucose投与によるDNDの抑制(Life Sci.64,193-198,1999)。および高体温による抑制効果の阻害作用を検討した(Brain Res 840:167-170,1999)。さらに最近、DNDがアポトーシスであることに対する反対意見が出てきているため、DNDがアポトーシスであることを神経線維内を移動する断片化DNAを証明することによりこれを明かとした(Brain Res Prot 4,140-146,1999,Stroke 31:231-239,2000)。遅発性神経細胞死の成因を解明することは、老人性痴呆の原因の解明にもつながると考えられ、最近の我々の研究も含めて明かとなった遅発性神経細胞死の本質すなわちアポトーシスをコントロールすることにより、老人性痴呆の防御の手がかりともなりうると考えられる。
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