研究概要 |
これまでに、Rac1のヌクレオチド交換因子であるPIXはNckやPI3-キナーゼの調節サブユニットを介してEphB2と複合体を形成し、リガンドによるEphB2の活性化はPI3-キナーゼによるPIXの活性化を促し、その結果Racが活性化されるという結果を得た。そこでEphBおよびEphrinBファミリーとPIXのヒト腫瘍組織での発現をスクリーニングした。EphB1,EphB2,EphB3,EphB4,EphB6およびEphrin B1,Ephrin B2,Ephrin B3につき、RT-PCRで検索したところ、高分化胃癌と大腸癌の進行癌組織を検索した範囲では、EphB2とEphrin B1,Ephrin B2の発現が高頻度に認められた。一方、EphB1,EphrinB-3の発現していた症例の頻度は低い傾向がみられた。PIXは、乳癌組織の症例で高発現している頻度が高かったが、消化器癌でEph/Ephrinと共発現している症例は検索範囲では多くはなかった。一方、同じくRac1のヌクレオチド交換因子であるTiam1についても検索したところ、消化器癌組織で高発現している症例がみられ、Eph/Ephrinとの相互作用や癌の形態形成において協調的な役割が考えられる結果であった。またTiam1と複合体を形成する蛋白質をスクリーニングしたところ、転移抑制遺伝子として知られるnm23H1が単離された。Tiam1は、そのN末端部でnm23H1と複合体を形成することにより、Rac1に対するヌクレオチド交換因子としての活性が阻害された。さらにnm23H1の過剰発現により、細胞膜ラッフルの形成が阻害され、Tiam1の細胞膜での局在もnm23H1の共発現により修飾されるという結果が得られた。これらのことから今後、Eph/Ephrin,Tiam1およびnm23H1の複合的な発現検索を行えば、あるタイプの癌の転移、進行度をより密接に示唆できる可能性があると考える。
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