研究概要 |
腸上皮細胞への付着は、腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染の初期段階において必須である。これまでの培養細胞を用いた感染実験の結果から、EHECは最初に単独で上皮細胞に付着した後、そこで増殖することによって集落(マイクロコロニー)の形成に至ることが明らかになっている。この最初の付着はTypeIII分泌機構及び分泌蛋白質EspA,EspB,EspDのいずれか及びすべて、さらに未知の付着因子によって司られていることが遺伝的解析などから示唆されている。本研究で我々は、O157:H7の付着に関する93kDaプラスミド(pOl57)の役割を調査し、toxB遺伝子が最初の付着に関与していることを明らかにした。(結果・考察)O157SakaiのpO157欠損株(O157Cu)は、Caco-2細胞上にマイクロコロニーを形成したが、O157Sakaiに比べてその数は少なかった。さらに、分泌蛋白質EspA,EspB,EspD及びTirの産生量も減少していた。toxBとoriを含む領域からなるmini-pO157プラスミド(pIC37)がO157Cuに導入されたとき、付着能及び分泌蛋白質の産生量が完全に回復した。これに対して、toxB遺伝子にカナマイシン耐性遺伝子の挿入を持つ変異pO157をO157Cuに導入した時は、それらの回復が見られなかった。ヒスチジンタグとToxBの融合タンパク質およびその切断タンパク質をO157Cu株に発現させることによりToxBのアミノ末端側1713アミノ酸がEspBタンパク質の発現誘導に関与していることが明らかになった。これらの結果は、ToxBタンパク質がTypeIII分泌機構により分泌されるタンパク質の発現誘導を介してEHECの上皮細胞への付着に関与することを示唆している。
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