研究概要 |
黄色ブドウ球菌は,腸管毒,TSST-1,コアグラーゼなど様々な毒素(酵素)を産生する.我々は,黄色ブドウ球菌における毒素(酵素)の分泌機構を明らかにするにあたり,多くの黄色ブドウ球菌が産生し,N末端にシグナルペプチドを有する分泌酵素であるスタフィロキナーゼ(SAK)に着目した. まず,スタフィロキナーゼ(sak)遺伝子の遺伝学的背景を明らかにする目的で,MRSANU3-1株からsak遺伝子およびその上・下流域をクローニングし,15600-bpにわたる領域の塩基配列を決定した.その結果,sak遺伝子は,バクテリオファージのゲノムに由来し,バクテリオファージが溶菌するときに必要な細胞壁分解酵素N-acetylmuramyl-_L-alanine amidaseをコードする遺伝子plyのopen reading frameのなかに割り込んで存在していた.このような構造は,6株のMRSAのうち5株に認められた.これら6株において,培養上清中のSakの量は,immunoblottingの結果から同程度であった(Horii T et al.FEMS Microbiology Letters,185:221-224,2000). 次に,MRSANU3-1株から,Sec因子のひとつであり,translocation ATPaseサブユニットをコードするsecA遺伝子のクローニングに成功した.secA遺伝子およびその上・下流域を約4-kbにわたり塩基配列の決定を行った.上流域には,secA遺伝子の調節遺伝子であると考えられるgeneX遺伝子が存在していた.さらに,これらのデータをもとにしてgeneX^-のisogenic mutantの作製にも成功した(未発表データ). 毒素(酵素)の分泌機構の解析を進めるには,SAK以外にも毒素(酵素)を定量するアッセイ系がいくつか必要であると考えた.そこで,まず,ELISA法によりプロテインAを定量するアッセイ系を構築した.現在,DNaseを定量するアッセイ系を構築しているところである.
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