研究概要 |
Akita mouseの突然変異で明らかにされたinsulinopathyでは,hypoproinsulinemiaおよびhypoinsulinenemiaであるだけでなく,β細胞の増殖分化の抑制など広範囲に影響が及んでいる。さらに,この変異は,単にIns2でコードされるinsulin分子のみにとどまるものとは考えられない。Akita mouseのこれらの形質をもつβ細胞を樹立し解析することは、タンパク質合成の異常をもたらす遺伝病の原因究明に役立つと考えられる。我々はこのAkita mouseを持ち、更にβ細胞特異的なヒトインスリンプロモーターにSV40T抗原遺伝子を結合した融合遺伝子を導入し、インスリノーマを発症するトランスジェニックマウスを譲り受けた。これらを交配し、双方の遺伝子を有するマウスを数匹得た。これらは生後9週齢まででは安定した血糖値変化を示し、それぞれの遺伝子の形質の拮抗が示唆された。更にこれらの腫瘍化したβ細胞の組織学的解析を開始している。これまでのところ、双方の遺伝子を持つ個体について行ったインスリンの免疫染色では、インスリンの濃縮が減少していることが、一部観察された。これにより、インスリンの合成・分泌に障害があることが示唆された。また、変異インスリンの分泌に伴いタンパク質合成に負荷が掛かり、関連タンパク質の増減が考えらた。現在、これらをタンパク質レベルで検討している。これまでのところ、二次元電気泳動による解析では、十数種のタンパク質の増減を確認できた。今後それらのタンパク質の同定を行う予定である。また、この腫瘍の細胞株の樹立を試みている。細胞株樹立後はin vitroにて変異タンパク質の挙動を明らかにすることが可能であると考えられる。すなわち、β細胞の異常から生じる糖尿病の発症機序解明のみならず、種々のタンパク質合成異常に由来する疾患の発症機序の解析に有望であると考えている。
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