本年度は乳がん治療における患者自己決定行動に影響を及ぼす要因の同定と、乳がん治療後の抑鬱傾向に対する自己決定志向の影響について評価を試みた。対象者は調査に同意を得た某総合病院の乳がん入院患者73名(平均年齢51.0歳)であり、術後1週間後に調査員による面接調査を行った。また治療後の抑鬱傾向を聴取するため退院2ヵ月後に郵送自記式調査を行った。解析は面接調査にて欠損値のない72名(治療後抑鬱の解析は42名)を対象とした。乳がん治療における自己決定行動は実際に受けた治療を「治療方針の選択肢からある特定の治療法を選択する(選択)」、「選択された治療方針を受容する(受容)」二つのプロセスに分け、それぞれについて自身が関与した程度を5段階のスケールで評価した。それぞれの自己決定行動スコアと前年度評価した自己決定志向スコアとの単純相関係数は0.28(選択)、0.22(受容)であった。また各自己決定行動スコアを従属変数とした多変量解析を行ったところ、選択決定行動に自ら関与する者の傾向として未婚、乳がん家族歴有、高自己決定志向が、また受容決定行動に関与する者の傾向としては未婚であることが示唆された。さらに治療後抑鬱傾向についてもCES-D(The Center for Epidemiologic studies for Depression)スコアを従属変数とした多変量解析を行ったところ、抑鬱傾向はその時点でのGHQ(The General Health Questionnaire)による精神的健康状態と痛み、吐き気症状の有無と有意な関連が見られ、自己決定志向については有意な関連は見られなかった。本研究により乳がん患者において治療法選択行動に自己決定志向が関与していること、また治療後の抑鬱傾向には自己決定志向が関与しているとはいえないことが示唆された。
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