研究概要 |
我々はアクチビン2型受容体およびTGF-β2型受容体のキナーゼ部分を欠失した変異受容体遺伝子をそれぞれ作製し、それらを正常の肝細胞株であるAML12細胞にトランスフェクションしその効果を検討した。その結果変異受容体を過剰発現した細胞においては投与したアクチビンAやTGF-βの増殖抑制作用が完全に消失し,さらにこれらの変異受容体を発現した細胞の増殖スピードは親株細胞より速いことを明らかにしている(Hepatology 25:1370-1375)。この結果は変異受容体の発現によりそれぞれの増殖抑制因子の作用がブロックされることを示している。そこでこれらの変異受容体遺伝子を肝臓へ導入するために東大医科研の斉藤が開発した方法に準じて,上記の変異アクチビンおよび変異TGF-β受容体遺伝子を組み込んだアデノウイルス・ベクターを作製した。同時に遺伝子導入の効率を検討するためLac-Z(β-galactosidase)遺伝子を組み込んだベクターも作製した。そこでこのLac-Z遺伝子を組み込んだアデノウイルス・ベクターを用いて門脈からの有効な遺伝子導入方法を検討した。Lac-Z遺伝子を導入できた細胞はX-galを用いて青く染色することにより簡単に発現を識別できることから、門脈内に様々な濃度で遺伝子を投与し、もっとも発現効率よく遺伝子を導入できる濃度またよく遺伝子の発現する時間を明らかにした。こうしてアデノウイルスベクターを投与する条件が確立された、次に実際正常肝の門脈内に変異受容体遺伝子を導入し、その効果を検討した。無傷肝臓のTGF-βのシグナル伝達を阻害することにより肝細胞がDNA合成を開始した、アクチビンのシグナル伝達阻害でも同様であった。このことからTGF-βやアクチビンは無傷肝臓においても増殖抑制作用を発揮していると考えられた。また、アクチビンのシグナルを阻害すると肝臓のTGF-βの発現は増強し、肝細胞増殖停止。アポトーシスが引き起こされると考えられた。以上よりTGF-β、アクチビンは肝臓重量の恒常性維持に重要な役割を果たしていると考えられた。
|