Transforming Growth Factor-beta 1(TGF-β1)は、肝線維化に重要な役割をはたすサイトカインである。最近、欧米人を対象としてTGF-β1遺伝子のcodon25の変異が肝線維化を抑制する可能性の報告がなされたため、本研究では、日本人の慢性肝疾患においてもTGF-β1遺伝子多型が肝線維化の進展に関与しうるかどうかを明らかにするために、codon25と、日本人に比較的多いとされているcodon10の遺伝子多型の検索を行った。対象のC型肝炎81例、アルコール性肝障害34例と日本人健常者78例では、すべて正常パターンであり、日本人には極めてまれな変異であることが分った。またcodon10においてもgenotypeと線維化マーカーとの関連はなく、これらの遺伝子多型が日本人の肝線維化の進展を左右する遺伝的要因にはならないと考えられ、人種による差異が示唆された。 一酸化窒素(NO)は生体内の様々な血流調整に関与することが知られている。NO合成酵素であるeNOSは遺伝子多型が報告され、高血圧などとの関係が明らかになってきた。本研究ではこのeNOS遺伝子変異(E298D)が肝硬変に伴う門脈-大循環の側副血行路形成に関与するかを検討した。肝硬変患者54例のうち、E298D mutationを認めたものは10例であった。これらの症例では門脈血中のNO代謝産物は低い傾向にあったが、側副血行路形成には大きな影響はおよぼさなかった。現在は血管新生に関与するvascular endothelial growth factorについての追加検討を開始している。
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