研究概要 |
新生内膜の形成は、動脈硬化や冠動脈形成術後の再狭窄において認められる共通した現象である。新生内膜形成を抑制するための新たなターゲットとして、我々は、ミッドカイン(MK)-好中球走化性活性をもつヘパリン結合性成長因子-の新生内膜形成における役割を検討した。ラット頚動脈balloon injuryモデルにおいて、MKは新生内膜の形成とともにその発現が増加した。マウス頚動脈結紮モデルでは、新生内膜形成はMK(-/-)マウスにおいて著明に減少していた。MK(-/-)マウスの頚動脈を結紮し、MKタンパク質を持続注入すると、新生内膜肥厚は再び観察された。MK(-/-)の傷害血管壁においては、白血球ことにマクロファージの浸潤が著明に抑制されていた。In vitroにおいては、MKはマクロファージおよび血管平滑筋の遊走を促進した。これらのことより、新生内膜形成においてMKは重要な役割を果たしていることが示唆された。 更に、我々は冠動脈疾患・不整脈・先天性心疾患・弁膜症・心臓神経症患者で冠動脈造影検査を受けた連続235例の患者においてMKの血中濃度を測定し、MKの血中濃度と冠動脈病変の重症度との関連について検討した。冠動脈病変の重症度はGensini scoreを用いて評価した。Gensini score<10(n=73)の正常群・10≦Gensini score<40(n=72)の軽度冠動脈病変群・40≦Gensini score<80(n=52)の中等度冠動脈病変群・80≦Gensini scoreの高度度冠動脈病変群(n=38)のMK血中濃度はそれぞれ0.242ng/ml,0.221ng/ml,0.220ng/ml,0.466ng/mlであり、高度冠動脈病変群においてMK値が高かった。次に、冠動脈疾患患者において経皮的冠動脈形成術(POBA)を施行した69例をMK血中濃度により2群に分類(L群:MK<0.25ng/ml,n=51,H群:MK≧0.25ng/ml,n=18)、PTCA後の再狭窄率について比較検討した。6カ月後のre-study時の再狭窄率はL群で33.3%、H群で61.1%でH群において再狭窄率が高かった(p=0.040)。 以上のことより、MKは動脈硬化病変・冠動脈硬化病変・新生内膜肥厚の進展に重要な役割を果たしていることが示唆され、MKの発現制御により冠動脈形成術後の血管再狭窄率を減少させることが可能であると考えられた。
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