研究概要 |
毛包表皮幹細胞の所在を明らかにするために,マウス頬髭毛包を用いて実験を行った。青色光を当てると緑色蛍光を発するタンパク質(GFP)を全身の細胞で発現するトランスジェニックマウス(GFP-Tg)から、毛周期の伸長期にある頬髭毛包を単離し,これを4分割(毛球に近いほうからPI,PII,PIII,PIVと呼ぶ)して、ノントランスジェニックマウス(NTg)から単離した毛乳頭を詰めたのち、NTgの腎臓皮膜下に移植した。移植後1カ月に毛包断片を回収し、蛍光顕微鏡下で観察した結果、PIIの35%、PIIIの65%に毛幹が形成されたのに対し、PIVの毛包断片には69サンプル中1つを除き毛幹は形成されなかった。PIIに比べ、PIIIに形成された毛幹は太く長い傾向があった。この結果から、PIIとPIIIにはSLAC(幹細胞様増殖性細胞)が存在すると考えた。つぎに、SLACの局在が細胞を取り巻く環境によって規定されている可能性を探るために、毛幹の形成されなかったPIVをPIIまたはPIIIと組合せ、毛乳頭ともに腎臓皮膜下に移植した。それぞれの毛包断片由来の細胞を見分けるために、PIVはGFP-Tgから取り、他はNTgから取った。PIV単独では毛幹が形成されなかったにも関わらず、PIIまたはPIIIと組み合わせた場合には、PIV由来の緑色蛍光を発する毛幹が確認された。この結果は、もともとSLACが存在しないPIVでも、SLACが存在するPIIやPIIIと接触させその環境に晒すことで、細胞がSLAC化できることを示しているものと考える。これまで毛包の幹細胞は毛母細胞を経て毛幹細胞や内毛根鞘細胞へと一方的に分化し、途中で後戻りすることはないと考えられてきた。しかし今後は、毛包表皮細胞が分化転換する可能性を踏まえて、毛包幹細胞の局在や動向を調べる必要があることが、本研究により示された。
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