研究概要 |
精神科疾患の多飲行動が遺伝の影響下にあることを調べるために、まず対象として親子または同胞で精神科疾患に罹患している例、64ペアを発見した。そのペアでの多飲行動の有無がどれほど一致するかを見たところ、予測されるよりも有意に高い確率で一致が見いだされた(goodness-of-fitness検定:χ^2=6.81,df=1,p=0.009)。つまり、精神科疾患での多飲行動が遺伝の影響を受けていることを支持する結果となった。 次にどのような遺伝子が多飲行動に関わっているかを調べるために、多飲行動のある精神分裂病患者65名と多飲行動のない精神分裂病対照患者97名の間で、多飲行動に関係するとの報告のあるアンジオテンシン変換酵素の遺伝子多型(ACE遺伝子I/D多型)について関連研究を行ったところ、遺伝子頻度において多飲のある群でACE遺伝子D遺伝子頻度が高い傾向を示した(χ^2=2.95,df=1,p=0.086)。また多飲行動のある群を水中毒発症群に限定した場合は有意にD遺伝子頻度が対照群に比較して高かった(χ^2=5.46,df=1,p=0.0196;Bonfferoni correction,p=0.0392)。またこの有意差は性、年齢、抗精神病薬投与量、喫煙の有無などの交絡因子を回帰分析で補正しても残った。ACEのD遺伝子はI遺伝子に比べてACE活性の上昇をもたらすことが知られており、本研究は遺伝的にACE高活性の患者に病的多飲や水中毒が発症しやすいことを示唆しているものと考えられた。 上記結果については現在、医学雑誌に投稿中であり、第23回日本生物学的精神医学会(平成13年4月、長崎)で発表予定である。
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