研究概要 |
Philadelphia転座t(9;22)(q34;q11)により形成される異常融合タンパクBCR-ABLは高いチロシンキナーゼ活性を有し、この増強されたキナーゼ活性が疾患の発症と深く関わっている。本来単量体であるABLがBCR付加によって四量体形成能を獲得し自己及び細胞内伝達分子のリン酸化を誘発する。BCR-ABLと分子間相互作用するタンパク群(Grb2、Shc、CrkL、SHP-1など)により活性化されたRasがBCR-ABLの腫瘍形成能に本質的な役割を果たしていると考えられる。一方でStat 3及びStat 5の活性化がBCR-ABL発現細胞においても誘導され、BCR-ABLから発するシグナルは造血因子受容体の刺激伝達と多くの点で類似していることが見い出され急速に理解が進んでいる。近年、Jak-Statシグナル伝達系に対し抑制的に働くCIS1がクローニングされ注目を集めている。CIS1はIL-2、IL-3、GM-CSF、EPOによって造血細胞における発現が誘導される細胞内情報伝達分子で、SH2ドメインを介してチロシンリン酸化されたEPOレセプター及びIL-3レセプターに結合する。BCR-ABL発現細胞株を用いた実験系において、CIS1がBCR-ABL融合タンパクと結合し、Stat 5の活性を抑制することにより腫瘍形成能を抑制することを見い出した(Experimental Hematology,2001,in press)。現在、CIS1ノックアウトマウスを作製中であり、ノックアウトマウス個体を用いることにより慢性骨髄性白血病の分子病態の解明を目指している。マウス個体における造腫瘍能の検討は単にBCR-ABLの発癌活性分子としての位置づけにとどまらず、慢性骨髄性白血病のより自然な病態に迫る分子機構を明らかにする上で極めて重要なアプローチといえる。
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