研究概要 |
【目的】私はこれまで共同研究者らとともにEGFファミリーに属する増殖因子であるベータセルリンが、膵外分泌由来の細胞株であるAR42J細胞をインスリン分泌細胞に分化させる能力を有することを明らかにし(J Clin Invest 97:1647,1996)、ベータセルリンが膵導管細胞およびα、β細胞に発現しており膵組織においても生理的なβ細胞の分化や機能維持に関与している可能性を示してきた(Endocr J46:755,1999)。さらに、同因子のβ細胞分化誘導能を利用し、ベータセルリンを外因性に糖尿病モデル動物に投与すると膵β細胞の新生が促進され耐糖能が改善することを明らかにした(Diabetes 49:2021,2000)。今回、ベータセルリンを膵組織特異的に過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製し、膵β細胞の分化・新生機構における同因子の役割を、機能の詳細が明らかでないHNFファミリーなどの転写因子群とともに明らかにし、膵β細胞分化・新生機構のさらなる解明を試みることを目的とした。 【方法】膵導管細胞特異的ベータセルリン発現系(エラスターゼ1のプロモーターを利用したもの)と膵α(グルカゴン)細胞特異的ベータセルリン発現系(グルカゴンのプロモーターを利用したもの)の2種類のベータセルリン-トランスジェニックマウスを確立した。 前記2種類の内因性ベータセルリン過剰発現系トランスジェニックマウスの膵組織像を発生段階から経時的に観察し、膵島の数や大きさおよび導管に接した膵島様構造物の数等に対する形態計測を行うとともに、ベータセルリン過剰発現特異的な膵組織の変化を免疫組織化学的に検討した。腹腔内ブドウ糖負荷試験を指標とした耐糖能も経時的に検討した。 【結果】耐糖能は、検討した範囲の週令ではwild typeと明らかな差がなかった。膵組織を観察したところ、導管に接したβ細胞を含む小さな膵島様構造物がwild typeに比し多数認められた。
|