研究概要 |
胆嚢結石の成因は胆石の種類によって大きく異なり,ビリルビンカルシウム石は胆道感染と密接に関係し,E.coliやK.pneumoniaeの細菌性β-glucuronidaseによって形成されるが,コレステロール胆石は胆汁中コレステロール過飽和によるコレステロール結晶の析出によるもので,胆道感染と関係はないと信じられてきた. 本研究は,胆汁や胆石に対してpolymerase chain reaction(PCR)を駆使して胆石内細菌の存在を証明するとともに,シークエンスを行って細菌の種類をも同定することによって,胆石形成機序を新しい観点から考察することを目的としたものである. 1.ビリルビンカルシウム石86%,黒色石35%,純コレステロール石57%,混合石60%の胆石内に細菌DNAを認めた.特にいまだ報告がない純コレステロール石にも胆石内細菌が57%も存在することを初めて明らかにした. 2.胆石PCR陽性であったビリルビンカルシウム石26,黒色石6,純コレステロール石12,混合石9に対して,PCR産物である16S rRNAの塩基配列の決定を行うことによって菌種を同定した.塩基配列の解析結果は,日本DNAデータバンク(DDBJ:DNA data bank of Japhan)の既存遺伝子情報との一致部位を比較して菌種決定した.その結果,ビリルビンカルシウム石にはE.coli,K.pneumoniae,Enterobacter,Clostoridium,Bacteroidesなどのグラム陰性桿菌や嫌気性菌が検出された.しかし,純コレステロール石の中心部からはStreptococcus42%,Staphylococcus17%,Enterococcus17%とグラム陽性球菌を76%も認め,大きく傾向が異なることを初めて明らかにした. 以上より,本研究は,分子生物学的手法を導入することによって胆石形成機序を新しい観点から考察することが可能となり,コレステロール胆石の形成機序にも細菌が関与している可能性が示唆され,胆石の治療におおいに役立つものであると考えられた.
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