研究概要 |
胃癌の肝転移機序を解明し、肝転移危険因子について検討を行った。胃癌同時性肝転移症例39例とcontrol群として2年間再発を認めない進行胃癌70例の2群を対象とした。マトリライシン(MMP-7)とインヒビター(TIMP-2)の発現を深部浸潤部と静脈侵襲部に注目し、2群間で比較検討を行った。また異時性肝転移症例6例を対象とし、同様の検討を行い、肝転移危険因子についても検討を行った。結果:臨床病理学的因子は同時性及び異時性肝転移症例に分化型腺癌が多く認められたほか、有意な差異は認めなかった。同時性肝転移群の静脈侵襲部におけるMMP-7の発現はcontrol群と比較して、有意に多く発現を示した。TIMP-2は有意差が認められなかったが、MMP-7が陽性かつTIMP-2が陰性を示す症例は同時性肝転移群の静脈侵襲部に多く認められた(p<0.05)。原発巣の分化度別に比較したところ、同時性肝転移群の分化型腺癌(tub1,tub2,pap)29例に上記と同様の所見が認められたが、低分化型腺癌(por1,por2)においては有意差は認めなかった。これらは同時性肝転移症例の胃原発巣は分化型腺癌に多い傾向があると以前より指摘されているが、化学的根拠として原発巣での静脈侵襲部のMMP-7とTIMP-2の両者の発現バランスにより左右される事が示唆された。さらに肝転移巣におけるMMP-7の発現は高く、TIMP-2は非常に低かった。異時性肝転移症例においては、control群と比較して有意に分化型腺癌が多く認められ、深部浸潤部と静脈侵襲部にMMP-7の高い発現が認められた(p<0.05)。さらにTIMP-2の発現を考慮に加えると、同時性肝転移症例と同等の発現を示した。以上より分化型腺癌で静脈侵襲部に高いMMP-7の発現を示し、TIMP-2の発現が低い症例は、肝転移再発危険因子を有する症例と考えられ、今後異時性肝転移症例数を増加させ、さらに検討が必要と考えられた。
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