研究概要 |
1)これまでに同定したHLA-A24拘束性上皮癌拒絶抗原(SART1,SART2,SART3,ART4)の膵癌細胞株や膵癌組織における蛋白レベルでの発現を、Western法とポリクローナル抗体を用いて解析した。その結果、いずれの抗原も60〜70%以上のサンプルにおいて発現が認められた。一方、非癌部膵組織においては、いずれの抗原も全く認められなかった(鈴木他、論文投稿中)。また、CypB抗原はその生物的機能から考察し、膵癌にも高発現していることが予想され、一方、Lck抗原は転移性膵癌に高頻度に発現していることを本教室の原嶋らが確認した(Eur.J.Immunol.31(3)issue,in press2001)。一方、HLA-A2拘束性癌拒絶抗原は、本教室の伊藤らが膵癌cDNAライブラリーより6種類同定した(Can.Res.61(6)issue,in press,2001)。 2)上記に記載した癌拒絶抗原由来ペプチドのうちHLA-A24結合モチーフを有し、かつCTL誘導能を有するものを13種類合成した。また同様に、HLA-A2結合モチーフを有しかつCTL誘導能を有するものを13種類合成した。これら26種類のペプチドによる膵癌患者末梢リンパ球(PBMC)より、キラーT細胞(CTL)誘導を試みた(HLA-A24膵癌患者10名、HLA-A2膵癌患者5名)。その結果、15名中11名のPBMCにおいて26種類のいずれかのペプチドに対するCTL前駆体が存在し、ペプチドでの刺激により活性化CTLの分化することを確認した(鈴木他、論文投稿中)。以上の研究により、膵癌患者に対するペプチドワクチンによる癌特異的免疫療法の科学的根拠の一部が明らかになったと考えられる。 3)上記の研究を膵癌以外の上皮性癌においても実施し、胃癌、大腸癌、肺癌、婦人科癌等においても同様の成果が得られた。また一方で、単一抗原由来のペプチドワクチン第I相臨床試験が本大学病院にて肺癌や大腸癌を対象に実施された。その結果、ワクチンによる有害事象は局所の炎症反応以外に認められず、一方ペプチドによるCTL誘導能は60%以上の患者において認められた。 4)上記の成果に立脚し、HLA-A24もしくはHLA-A2陽性の膵癌を含む上皮性癌患者を対象としたCTL precursor-oriented peptide vaccineの第I相臨床試験を平成12年10月より本学倫理委員会の承認を得て開始した。 5)以上を要約すると、この2年間に膵癌ワクチン開発の基礎研究においては多くの成果をあげられると考えられる。今後の課題としては、臨床研究としての膵癌ワクチンの開発が残されている。
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