研究概要 |
一酸化窒素(以下NO)はガス状のラジカルであり、生体内で様々の生理作用がある。癌においてもアポトーシスの誘導などによる腫瘍増殖抑制と局所低酸素による微小血管新生による腫瘍増殖促進の異なる役割を果たしていることが報告されているが、まだ一定の見解がなされていない。そこでヒト癌におけるNOの作用を解明するため一酸化窒素合成酵素(以下iNOS)発現細胞を作成し以下の実験を行った。 iNOS遺伝子を哺乳動物発現用プラスミドベクターに組み込み、これをヒト癌細胞株(Colo205,HT-29,LS174T,SW480)に導入し、iNOS発現細胞を作成した。iNOSの発現は、酵素活性をRI method、NADPH diaphorase染色にて確認し、mRNAの解析はライトサイクラーで行った。このiNOS高発現細胞を用い、NOが細胞周期とアポトーシスにどのように影響を与えるかを検討した。以上の実験から、iNOS高発現細胞で、細胞増殖の抑制が見られたが、アポトーシスはどの細胞株にも認めなかった。CIP/Kip familyのp21,p27,p53の検討で、p27のみ発現を認め、p27はcontrolに比し、iNOS高発現株で強発現していた。定量的PCRでの検討で、p27はcontrolに比し、iNOS高発現株で高い傾向にあった。α-カテニン、β-カテニンに発現の差は見られなかった。iNOS高発現株で、細胞増殖の抑制を認めた。この作用には細胞周期を調節する因子であるp27が関与しており、NO暴露によりp27が高発現し、細胞周期を停止させることが示唆された。今後、さらなる検討を加え、NOの細胞周期に与える役割を明らかにする予定である。
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