【緒言】平成11年度の研究より以下の結果を得た。(1)知覚障害を有しているラットでは結紮しなくともアキレス腱部に骨化が生じた。知覚障害の程度が進むほど生じた骨化は大きい傾向にあった。(2)結紮したアキレス腱組織内にsubstance P陽性細胞が観察された。 そこでアキレス腱への侵害刺激が加わると後根神経節内での神経伝達物質産生が亢進し、軸索内を通り末梢へ輸送さるとの仮説を立て、以下の実験を行った。 【方法】生後6週のWistarラットを用い右足アキレス腱のみを結紮した。結紮後1週、2週、4週、8週経過の時点でL3、L4、L5、L6椎体高位の後根神経節を両側とも灌流固定下に採取した。採取した後根神経節はパラホルムアルデヒドで固定しsubstance PとCGRPポリクローナル抗体を一次抗体として免疫染色を行い光顕で観察した。100倍視野での陽性細胞数を求め10視野の平均を細胞密度とした。なおアキレス腱結紮を行わなかった左側をコントロールとした。 【結果】採取した全ての後根神経節でsubstance P陽性細胞、CGRP陽性細胞が観察された。免疫染色陽性細胞密度を椎体高位、結紮後の時期により比較した。 Substance P陽性細胞密度:L4、L5椎体高位の後根神経節ではコントロールに比し陽性細胞密度が高かった。その傾向は結紮後1週、2週の時点で明らかであった。一方、結紮後4週、8週では明らかな差はみられなかった。 CGRP陽性細胞密度:L4、L5椎体高位の後根神経節ではコントロールに比し陽性細胞密度が高かった。その傾向は結紮後1週では明らかだったが、結紮後2週、4週、8週では差はみられなかった。 【考察】以上より、アキレス腱へ侵害刺激を与えると比較的早期に後根神経節内の神経伝達物質産生が亢進していた。アキレス腱組織中にsubstance P陽性細胞が確認されたことと考えあわせると、それらの神経伝達物質が末梢へ輸送され、異所性骨化形成に何らかの作用を発現しているものと推察された。
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