脊髄損傷におけるアポトーシスの病態的ならびに臨床的意義を明らかにし、脊髄損傷後のアポトーシス抑制療法のための基礎的知見を得ることを目標として本教室で確立した脊髄損傷モデルマウスを用いて研究を行った。まず、Fas を介したアポトーシスが脊髄損傷に及ぼす影響を調べる目的で、Fas を発現しないミュータントマウスであるMRLマウスとWild type のマウスにおける脊髄損傷を比較した。行動学的には、損傷後1週までは違いが認められなかったが、1週以降ミュータントマウスの回復が良好であった。in situ nick end labelling によって組織学的にアポトーシスを比較すると、損傷後1週までは違いが認められなかったが、1週以降Wild type のマウスのみで損傷部位から離れた部位のアポトーシスが認められた。免疫組織学的に、このアポトーシスはオリゴデンドログリアに生じていることを明らかとし、これによる伝導障害が行動学的な差の原因であることをつきとめた。現在、抗 Fas 抗体を投与することにより、このアポトーシスを抑制する実験を遂行中である。一方、脊髄損傷における二次損傷を、免疫担当細胞の抑制によって阻止する実験も開始しており、活性化したリンパ球、マクロファージ、およびミクログリアにアポトーシスを生じることが期待される特殊な Fas リガンドを脊髄損傷直後に投与することで、脊髄損傷が改善するとの知見を得ている。今後この改善効果が、実際に免疫担当細胞のアポトーシスによって生じていることを、組織学的および生化学的に証明していく予定である。
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