近年、スポーツ愛好家の増加に伴って足関節の靭帯損傷が増加し、自家組織を用いた種々の靭帯再建術が行われている。こうした治療法において、長期にわたって良好な成績を維持するためには、健常な靭帯ならびに再建に用いる自家組織の物理・生化学的特性を十分に把握しておくことが重要と考える。そこで、我々は、まず正常なヒト足関節周囲靭帯を構成する結合組織について、病理組織学的ならびに生化学的分析を行い、加齢変化について検討した。 ヒト足関節の三角靭帯(DL)には、その主要構成成分であるI型コラーゲンとともに軟骨型の酸性ムコ多糖を有するプロテオグリカンが豊富に存在し、その量は加齢とともに減少することが観察された。さらにコラーゲンの生化学的分析からは、DLでは加齢とともに還元性架橋は減少し、非還元性架橋結合であるpyridinoline量が増加し、コラーゲン線維が安定化してゆくことがわかった。一方、前距腓靭帯(ATFL)、踵腓靭帯(CFL)では、軟骨型の酸性ムコ多糖の存在は認められず、加齢による還元性架橋の減少および、非還元性架橋の増加もDLに比べて緩徐であることが判明した。以上の結果から、DLのマトリックスは軟骨様のプロテオグリカンを豊富に含み、その生化学的特性も加齢により大きく変化するのに対して、ATFL、CFLで合成されるマトリックス分子は、経年変化の緩徐な、比較的弾性に富む線維を形成するものと考える。 ヒトの足関節周囲の靭帯は、それぞれの有する特異な構造と機能に応じて、プロテオグリカンならびにコラーゲンの生化学的特性とその加齢変化を異にすることがわかった。今後は、これらの点を十分に考慮して靭帯再建術を検討してゆく必要があるものと考える。
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