研究概要 |
血管内皮細胞はエンドセリンに代表される収縮因子やEDRF,EDHFなどの拡張因子を放出し血管平滑筋の筋緊張を調節して血液灌流の自動調節に貢献している。麻酔薬はこうした自動調節能を障害する。たとえば揮発性麻酔薬によるEDHFの作用阻害は有名である。麻酔による循環障害ひいては臓器障害がこうした麻酔薬による血管の自動調節能の阻害によって起こるのではないかと考えられているが、その分子機序はほとんど知られていない。前年度我々はEDHFに関与するイオンチャネルである、2種のカルシウム依存性カリウムチャネル(SK,IK)に対する揮発性麻酔薬の影響を調べ,IKのみが臨床使用濃度の代表的揮発性麻酔薬であるハロセン、セボフルレン、イソフルレン、エンフルレンに感受性を示すことを報告した。 揮発性麻酔薬に対して感受性を示さなかったSKと感受性を示したIKはともに6回膜貫通型のイオンチャネルであり、第5と第6膜貫通領域の間にカリウムイオンを通すポア領域を有している。この構造上の類似性をもとに今年度はIKとSKとのキメラチャネルを作製しアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させハロセンに対する感受性を調べることによりIKの分子内麻酔薬感受性部位の同定を試みた。 活性のあった6種のキメラチャネルのうちIKのポア領域から第6膜貫通領域の前半を有するキメラチャネルのみがハロセン感受性を有し、他のチャネルは感受性がなかった。このことよりIKの揮発性麻酔薬感受性はポア領域が関わっていることが示唆された。 GABAA受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体も揮発性麻酔薬によりチャネル活性が変化するがこれらの作用にもチャネルのポア領域が関わっている。イオンチャネルのイオン通過部位が揮発性麻酔薬の共通の標的である可能性がある。
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