研究概要 |
リチウムがneuronal plasticityに強く関与するとされる脊髄神経細胞内のイノシトールリン脂質系セカンドメッセンジャーを減少させ,神経因性疼痛を抑制するという仮説をたてた。神経痛モデルラット及びヒト(難治性神経因性疼痛患者)にリチウムを投与しその効果について検証した。 【神経痛モデル動物におけるリチウムの効果】 神経痛モデルラットの髄腔に留置したカテーテルよりリチウム溶液を注入し,その疼痛行動に与える影響を調査した。リチウムは,ラットの疼痛行動を有意に抑制し,神経損傷後の疼痛に対する有効性が示唆された。このリチウムの疼痛行動抑制作用はイノシトールの同時投与により拮抗された。このことからリチウムのリン脂質系への作用が重要であると考えられた。 【難治性神経因性疼痛患者に対するリチウムの効果】 種々の治療にて痛みの軽減が得られない神経因性疼痛患者(帯状庖疹後神経痛、カウザルギー、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛)に対し、研究参加への承諾を取った後、炭酸リチウム(商品名リーマス、大正製薬)を経口投与した。リチウムの投与量は血中濃度をモニターしながら有効濃度になるように調節した。外傷後左下肢カウザルギー患者(40才男性、罹病期間約7年間、三環系抗うつ薬、抗てんかん薬などを内服中、各種神経ブロック療法が無効で、硬膜外脊髄刺激電極埋め込み術施行後)の下肢の灼熱痛はリチウム投与により減弱し、中止により増強した。腕神経叢引き抜き損傷後疼痛患者(18才、男性)に、リチウムを投与したところ、有効血中濃度に到達するまでに、頭痛や眠気などの副作用が出たため投与を中止した。帯状疱疹後神経痛患者(65才男性)ではリチウムが有効血中濃度に達したものの、疼痛の緩和作用は認められなかった。症例数が少なく、最終的な結論を出すには至っていない。今後、さらなる調査を予定している。
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