研究概要 |
中枢神経系のコリン作動性神経は、海馬・皮質・線条体領域において学習、記憶、錐体外路系等の運動機能に重要な役割を演じている。一方、麻薬に代表されるオピオイド受容体アゴニストは、鎮痛など麻酔作用・学習と記憶・循環呼吸機能調節などに関与している。したがってオピオイド受容体アゴニストが脳領域のアセチルコリン遊離に対して及ぼす影響を調べることによって、オピオイド受容体アゴニストが中枢神経系に影響を及ぼす機序の解明に役立つと考えられる。 本研究では、短時間作用性麻薬でμオピオイド受容体アゴニストであるフェンタニールを腹腔内に投与し、フェンタニールがラット脳の海馬におけるアセチルコリン遊離に及ぼす影響について、HPCL-ECDを組み合わせた無拘束下脳内微少透析法を用い、補助金によって購入したサンプリングシステムを活用して測定し、フェンタニールによる立ち直り反射の消失効果とμアンタゴニストのナロキソンによるその拮抗作用を比較検討した。 その結果、フェンタニール50,100,200μg/kgの腹腔内投与により海馬におけるアセチルコリン遊離は有意に抑制された。またフェンタニール50,100μg/kg投与時は立ち直り反射の消失はみられなかったが、200μg/kg投与時には半数に立ち直り反射の消失がみられた。この際、立ち直り反射の消失時間とアセチルコリン遊離の抑制時間は相関する傾向がみられた。またナロキソン100μg/kg投与はフェンタニル100μg/kg投与のアセチルコリン遊離抑制作用を拮抗した。 海馬は記憶・学習に大きな役割を持つが、海馬におけるアセチルコリンの遊離はμオピオイド受容体により抑制性の調節を受けることが示唆された。
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