研究概要 |
種々の化学物質の精子運動能へ与える影響を、コンピュータ精子自動自動分析装置(CASA)を用いて検討した。当初は一般的な金属イオンの影響を主体にして研究を行う予定であったが、最近の内分泌撹乱物質が生殖系に与える影響が取りざたされていることに鑑みて、対象化学物質を内分泌撹乱物質の一つであるbisphenol A(BPA)に絞って実験を行った。BPAはエストロゲン受容体を介して作用すると考えられており、またこれまでの報告により、ヒト精子にはエストロゲン受容体が存在することが示されており、これよりBPAが精子の機能に対して何らかの影響を与える可能性が十分に考えられた。実験材料として正常所見を示したヒト精子を用い、同意をとった後にpercoll-swim up法で処理して運動良好精子のフラクションを得た。次いでBPAの添加濃度別(0,100fM,100pM,100nM,100μM)に5つのグループに分けた。これを37℃のインキュベータ内で24時間後まで培養し、その間6時間毎に各群の一部を取りCASAを用いて精子の種々の運動パラメータの経時的変化を観察した。対照群(BP無添加)においては、培養6時間後では精子運動性に大きな変化は認められなかったが、12時間後頃から低下がみられはじめ、24時間後には、運動速度は開始時点の40-50%にまで低下した。一方種々の濃度のBPA添加群では、100fM,100pM,100nM添加の3群では、対照群と比較して差は認められなかった。しかし100μM添加群においては、培養18時間後以降から対照群以上に運動速度の低下が認められた。以上から、BPAは低〜中濃度においては精子運動性に大きな変化を与えないことが示された。また、高濃度での精子運動性の低下は、この濃度におけるBPAの細胞毒性によるものである可能性が示唆された。本研究の結果は、現在投稿に向けて準備中である。
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