研究概要 |
癌抗原を同定するために,癌患者の血清で患者自身の癌細胞を検索する方法が 以前より試みられてきた。近年それを応用したSEREX(serological identification of antigens by recombinant expression cloning)法が開発されメラノーマ,リンパ腫,食道癌,大腸癌などで癌抗原が同定されている。しかしどのような癌で,どのような癌抗原が検出されるのかなど評価はこれからの課題である。今回,卵巣癌を対象にこの手法を用いた癌抗原同定を試みた。卵巣癌組織ならびに血清は患者の同意を得た後採取した。2人の卵巣癌患者の組織よりRNAを抽出し,それを用いて相補的DNAのlibraryを作製した。その後,libraryと患者血清を用いて抗原抗体反応によるスクリーニングを施行し,患者血清と反応した陽性クローンを拾った。次に,そのクローンのsequenceを行い塩基配列を決定した。また得られたクローンを他の卵巣癌患者血清,正常人血清と反応させ,抗体の検出率を検討した。卵巣癌のSEREX法による検索で,5種の遺伝子に由来する10個の陽性クローンを単離した。すべて既知の遺伝子であり,TGFβ4,BP69protein, Human Lipoamide Dehydrogenase, KIAA0216,KIAA0016であった。これらは患者が反応している癌抗原の一部であると考えられる。またそれぞれの遺伝子にコードされている抗体の他の血清中の検出率は0-30%であった。以上の同定された抗体は,さらなる解析により,腫瘍マーカー,癌免疫療法へ応用できる可能性が示唆された。
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